はじめに

私たちの生活は、組織を離れては考えられません。
たとえば、ある人は、会社という組織の一員であると同時に
それを構成する部や課の一員でもあります。
そして、家庭という組織の一員でもあります。
また、PTAや草野球チームの一員ということもあるでしょう。
このように、人はいくつかの組織の一員として活動しているのですが、
そこでは日々いろいろな問題に直面します。
しかしその中でも、最も日常的に起こり、かつ解決が困難な問題は、
人間関係に関する問題であるといっても
過言ではないでしょう。

たとえば、部下を動機づけようとして、一生懸命説得しているのに、
部下はやる気を起こすどころか、ますます気持ちが離れていってしまう。
その結果、人間関係がギクシャクし、そのうち、管理職は「あいつはダメだ!」と言い、
部下は「あの人はわかっていない!」ということになって、
業績どころではなくなってしまう、
というようなことはどこの職場でも起きています。

また、家庭においても、
「最近、子どもが私の言うことを全然聞かなくてねえ」とか、
「どうしても女房と喧嘩ばかりしてしまうんだよ。おかげで家の中は暗くてねえ」
といったこともよく聞かれることです。

このように、人はなかなか自分が思ったように動いてはくれません。

むしろ、むきになればなるほど、人間関係はますますこじれてしまいます。
まるで、イソップ童話の『北風と太陽』に出てくる北風と旅人のようにです。

では、より良い人間関係を築き、
「みんながイキイキと働き、高い業績を維持し続ける、活性化された職場」や
「相互に信頼し合った、豊かな家庭」を作るには、一体どうしたらいいのでしょうか。

それは「自分が変わること」です。

自分が変わることによって、組織(職場や家庭の人間関係)に変化を与えるのです。

では、どうやって、また、どう変わったらいいのでしょうか。
まず第一に、自分の心の在り方を変えることです。
そして第二に、コミュニケーションの在り方を変えることです。

このことによって、人間関係に変化(信頼)が生まれ、
初めて人は動くのです。

本書は、精神分析療法である「交流分析」(transactional analysis/略称=TA)を
ビジネスの現場に応用することによって、
「職場の人間関係を劇的に変化させ、活性化された組織を作る‼ 」
という目的を主眼に置いた、リーダーシップの開発手法として書かれています。

しかしながら、
自分の心の在り方を変え、
コミュニケーションの在り方を変えることは、
職場の人間関係のみならず、家庭や隣人や友人など、
すべての人間関係に
劇的な変化をもたらします。

その意味では、現在管理職である方々だけでなく、
できるだけ多くの方々に本書を手にとっていただき、実践されることによって、
豊かな人間関係を築き、生き生きとした毎日を送られることを、
心から願ってやみません。

著者
一九九八年四月