3 ストロークの分類

この事例は私たちにとっても、ストロークがいかに大切な要素であるかを示しています。
では、ストロークには、どのようなものがあるのでしょうか。

ストロークはまず、肯定的なストロークと否定的なストロークとに分けることができます。
肯定的ストロークとは、「あなたを認めています」という刺激のことをいい、
否定的ストロークとは、「あなたを認めません」という刺激のことをいいます。
言い換えれば、前者は「You are OK」というメッセージであり、
後者は「You are not OK」というメッセージであるといえます。

 

肯定的ストローク

肯定的ストロークは、条件付きの肯定的ストロークと無条件の肯定的ストロークに、否定的ストロークは、条件付きの否定的ストロークと無条件の否定的ストロークに分類されます。

肯定的ストローク ①条件付きの肯定的ストローク
②無条件の肯定的ストローク
否定的ストローク ①条件付きの否定的ストローク
②無条件の否定的ストローク

 

条件付きの肯定的ストロークとは、相手の行為や特性に対してOKを与えるもので、
いくつかの例をあげると、
●君の作る企画書は、いつもまとまってて、いいね。
●さあ、今月の目標を達成できたら、打ち上げをやろう。
●いやあ、むずかしい仕事だったけど、よくできたなあ。
●確かに君の言うとおりだ。
などです。
これに対して、無条件の肯定的ストロークとは、
相手の存在そのものに対してOKを与えるもので、
例をあげると、
●(人が部屋に入ってきたとき)おお、よく来たなあ。
●(友人とであったとき、思わず肩を組んで)いやあ、久しぶりだな。どうしてたんだ。
などです。

この肯定的ストロークは、相手に愉快な、楽しい感情を与えます。
そして相手には「I am OK」という意識が生まれます。
そのため、自由に感情を表現したり、思い切った行動が可能になります。

ここで気をつけなければならないのは、一見肯定的ストロークに見えても、実は後に述べ
る否定的ストロークであることも、実際は多いということです。

わかりやすい例で考えてみましょう。

「お前が素直だから、お父さんはお前が好きなんだ」

この場合、子どもの日頃の行為、または特性に対して、好きというOKのメッセージを
送っているように見えます。
したがって、条件付きの肯定的ストロークのように見えます。
しかし、よく考えてみてください。
父親は五つのどの自我状態で、子どものどの自我に対して刺激を与えているでしょうか。

そうです。
子どものACに対して、
●素直にいうことを聞きなさい。
●反抗してはいけません。
というメッセージを送っています。
すなわち、父親はCPの自我状態から
「いうことを聞かない子は、お父さんは嫌いだ」
という否定的な刺激を子どものACに対して与えているのです。
このため、子どもは大いに混乱します。
そしてこのようなストロークを与えられても、素直に喜べず、愉快な、楽しい気分になら
ない、何か不思議な感情が生まれます。
このようなことが繰り返されると、成長しても、肯定的ストロークを素直に受け入れるこ
とのできない大人になる可能性があるでしょう。

 

否定的ストローク

否定的ストロークにも、条件付きの否定的ストロークと無条件の否定的ストロークがあり
ます。
条件付きの否定的ストロークとは、相手の行為や特性に対して、
「You are not OK」という刺激を与えるもので、
たとえば、
●今月の目標を達成できなかったら、明日から早朝出社だ。
●俺のいうことが聞けないんだったら、会社に出てこなくてもいい。
●君の作った企画書は、誤字脱字が多いな。
というような場合です。

これに対して、無条件の否定的ストロークとは、
●君はいつもそうじゃないか!
●まったく。仕事もせずに休みばっかり取りやがって!
●いいからいうことを聞け!
●無理無理。できっこないからやめとけ。
というような、相手の存在そのものに向けられた、
(お前はダメな奴だという)否定的なストロークのことをいいます。

いずれも「You are not OK」という強烈なメッセージを送っています。

ところで、このようなメッセージを受け続けると、
一体相手はどのように反応するでしょうか。

 

ニールはなぜ死を選んだのか

ここに一つの例があります。

一九五〇年代の、バーモント州にある全寮制の伝統的な超エリート学園を舞台に、
若者たちが古い既成概念を打ち破り、生きることの意味に目覚めていく過程を描いた
『今を生きる』という映画があるのをご存知でしょうか。
一九八九年のアカデミー賞を受賞した作品で、日本でも大ヒットしましたので、
覚えている方も多いと思います。

この学園の生徒の一人にニールという名の若者がいました。
彼の両親は、彼がこの超エリート学園に入学したことを大いに誇りに思うと同時に、
優秀な成績で卒業して、ハーバード大学に進学することを信じて疑いませんでした。
彼は両親の期待を一身に担っており、彼もまたそれに応えようと一生懸命勉学に励みま
した。
そして、全科目Aという優秀な成績を収めていました。
しかし、彼は本当は演劇をやりたかったのです。
そのため、両親にはないしょで劇団に入っていました。
ある日、彼は幸運にも、主役に抜擢されました。
が、しかし、主役をやれば、父親に演劇をやっていたことがバレてしまいます。
彼は、思い悩んだあげく、父親を説得することを決心します。
答えはNOでした。
父親ははじめこう答えます。
「だめだ!演劇など。私たちを失望させるな!」
しかし、彼の演劇にかける情熱が伝わったのでしょうか、
「一度だけ」という条件付きで今回の主役を務めることが許されました。

舞台は大成功でした。
観客の絶大な拍手に応えて舞台挨拶に立った彼は、
見に来ていた父親に向けてこうメッセージを送ります。
「こんな下手な芝居なんて、お父さんの夢に比べれば、きっと愚かなことでしょう。
でも、演劇を続けることを許して欲しいんです」
終了後、自宅に連れもどされた彼に向かって、父親は激怒してこう言います。
「なぜお前は私に逆らうのか!
ニール、お前はハーバードを目指すんだ!」

彼は勇気をふりしぼって、父親に向かってこう言います。
「お父さん!ぼくの気持ちを聞いてください!」

父親は、彼の言葉を遮りながら、
そして、一度だって自分に逆らったことのなかった息子に驚いたように、
「お前の気持ちだと⁉ 」

そして、吐き出すように叫びます。
「言ってみろ‼ 」

父親のあまりの怒りに言葉を失った彼は、静かにひとことこう言います。
「もう、いいんです」
そして、両親が寝静まった深夜、彼は一人自室でみずからの頭に向けて、
ピストルの引き金を引いてしまいます。

この映画の中で、父親は若者に対して、あまりにも多くの否定的ストロークを与え続けて
います。
それも、彼の存在そのものに向けられた無条件の否定的ストロークをです。
そのため、彼の意識の中には、「I am not OK」という感情が強烈に醸成され、
その結果、みずから自分自身の存在そのものを否定(自殺)してしまった、
ということができるでしょう。

はたして、このことは、映画の中だけの出来事なのでしょうか?

 

OKな否定的ストロークとは

では、否定的ストロークはすべてOKでない刺激なのでしょうか。
答えはNOです。
なぜならば、
条件付きの否定的ストロークが、相手の良くない行動や特性を、
前向きな好ましい方向に変えていく手助けとなることが現実にはたくさんあるからです。

たとえば、
「君の企画書は、誤字脱字が多いな。今度から、わからない字があったら、
必ず辞書を引くようにしたらいいよ」
「う~ん、今月も君は目標未達成か。君の動きのどこに問題があるのか、
一緒に考えようじゃないか」
また、
「お父さんは嘘をつく子は嫌いだ。嘘をつくことは勇気のない証拠だ。
今度からは、勇気を出して、本当のことを言ってごらん」
というような場合です。

これらはいずれも、
①その行動を問題にしているのであって、その人の存在そのものは問題にしていません。
②また、「効果的な自我状態」(NP・A・FC)から、相手の「効果的自我」に働きかけてい
ます。
③そして、問題の解決に向けての前向きな姿勢が見てとれます。
そのため、このようなストロークを受けた相手は、
決して、「I am not OK」という感情を抱きません。
むしろ、好ましくない行動を自分自身の力で変えるための、手助けをしているともいえ
ます。
それは、「You are OK」というメッセージでもあるのです。
したがって、このような「前向きな」条件付きの否定的ストロークは、
OKな刺激といえるでしょう。

以上見てきたように、
私たちは、肯定的ストロークと「前向きな」条件付きの否定的ストローク(私はこれを「効果
的な」ストロークと呼んでいます)のみを与えるように心がけ、
「You are not OK」というメッセージを与えてはいけないということを、
決して忘れてはなりません。