[3-2]第2の原則<関心を持つこと>

次の例は、私たちが日常の中で経験しやすいことを取り上げたものです。
あなたならどのように感じますか。
よく読んで考えてください。

 

①久しぶりに本社に行き、廊下で以前上司だった課長とすれ違いました。挨拶したところ、
「えーと、君はどの部署だったっけ」と言われたうえに、名前を間違って呼ばれてしまい
ました。

②明日は大事な取り引きのプレゼンテーションの日。あなたは徹夜で企画書を書き上げま
した。自信作です。目を通してもらうため、課長に胸を張って差し出したところ、「あ
あ、後で読んどくから、そこ、置いといて」と言われてしまいました。

 

③「やった、ついにやった!難攻不落といわれた城南商事から注文もらったぞ!課長は
あそこは無理だと言ってたけど、一年がかりで通ったかいがあったというもんだ!」
喜び勇んで会社にもどり、課長に報告しようとしました。
「課長!」「あっ、悪い。これから会議なんだ」と言って出ていってしまいました。

④「まずいなあ、遅刻だ。課長怒ってんだろうなあ」。会社に着くなり課長の席に行き、
「すいません。遅刻しまして」と言ったところ、
課長は下を向いたまま、「ああ」と、ひとこと言っただけでした。

これらは、いずれも「無関心」の例です。
すなわち、ストロークが欠乏、または不足している状態といえます。
そして、それは、最も強烈な「You are not OK」のメッセージです。

 

無関心は相手のどんな反応を引き出すか

まず第一に相手の「無気力」を引き出します。
人はみな、他人から認められたいという願望を持っています。
にもかかわらず、関心さえ示してもらえないとしたら、どうなるでしょう。
「どうせやっても聞いてくれないんだ、認めてくれないんだ」
という決心を、相手にさせる結果となるでしょう。
そして、無気力状態に陥っていきます。

第二に、みずから進んで、否定的なストロークを求める行動をするようになります。
ストロークは、人が生きていくためには必要不可欠なものです。
したがって、ストロークが欠乏した状態が続くと、
仮にそれが否定的なストロークだとしても、
それを求める行動を起こしてしまいます。
すなわち、歪んだ形で、自分の存在を周囲にみとめさせる行動となって現れるのです。

これを防ぐためには、相手に対して、精一杯の関心を持ち、肯定的ストロークを充分に与
えてあげることが必要です。

 

どうしたら関心を持てるようになるのか

とはいうものの、現実に、他人に関心の薄い人は、
どうしたら関心を持てるようになるのでしょうか。
それは、日頃からFCの自我を働かせることです。
FCは、いろいろなことに関心があります。
私たちが子どもの頃、みなそうであったように、
周囲に起こることすべてが興味深いものに映ります。
FCの自我を意識的に働かせることによって、
自然に、人への関心も強くなっていくのです

 

意欲を失いかけた部下への対応

課の状況

山本課長は、OA機器の販売会社に勤務する三二歳。
大学卒業後、一貫して営業畑を歩んできた中堅管理職です。
彼は入社以来、ずっとトップクラスの営業成績をあげ続け、三一歳という若さで昨年四月
に販売二課長に抜擢された、バリバリの営業マンでもあります。
バイタリティにあふれ、また思ったことをズバズバ言う裏表のない言動は、
上司からも部下からも慕われていました。
山本課長の下には、高田主任がおり、口数は少ないが、コツコツとまじめに努力するタイ
プで、特にめだった存在ではありませんが、成績は常に中の上で安定していました。
販売二課はそのほかに、昨年四月に大学を卒業して、入社後すぐ配属された佐藤君と柳沢
君の四人で構成されていました。
佐藤君は、出世頭の山本課長を心から信頼しており、
性格や体格が似ていることから「ミニ山本」と周囲から呼ばれていました。
一方の柳沢君も山本課長を信頼していましたが、もともと引っ込み思案な面があり、
佐藤君ほどには山本課長と自由な雰囲気で会話をしづらいと感じていました。

販売二課は、課の売上目標一〇〇に対して、
山本課長四〇%、高田主任三〇%、佐藤君一五%、柳沢君十五%で構成されており、
文字どおり、山本課長が率先垂範して課を引っ張っていました。
一方で、山本課長にとっては、部下と接する時間がなかなか取れないことも不安ではあり
ましたが、自分がかつてそうであったように、上司が頑張っている姿を見せることが、特
に若い二人に対しては一番の教育であると確信していました。

 

状況の変化

山本課長が就任して一年ほど経った頃から、同期の佐藤君と柳沢君の成績に大きな開きが
出るようになってきました。
佐藤君は順調に売上を上げていましたが、一方の柳沢君は売上も三カ月連続して未達
の状態が続いており、元気もなく、仕事への意欲も(自分だけでなく、周囲の人たちにも)
感じられなくなってきたのです

 

柳沢君の本音

ある日、佐藤君は柳沢君を誘って二人で飲みに行きました。
佐藤「最近成績よくないじゃない。どうしちゃったんだい」
柳沢「うん、頑張ってはいるんだけど…、契約が決まらないんだよね。
これじゃいけないと思って、昨日なんかも、八時頃まで営業して…。
もっとも会社に戻ったときは、みんな帰った後だったから、君も課長も知らないと思
うけど。それなのに、今朝のミーティングでは、課長は君の昨日の契約をほめていた
けど、ぼくのことなんかひとことのねぎらいの言葉もなかったもんな」

佐藤「いやー、すまん!昨日は、その大口の契約のお祝いで、課長と飲みに行っちゃったん
だよ。ところで、頑張っているのはわかるけど、どこか営業方法が悪いんじゃない
か。一度、山本課長に相談してみたらどうだい」
柳沢「だめだよ。山本課長はいつも忙しそうだし、今日もわからないことがあって、
山本課長のとこに行ったら、今、手が離せないんだ、後で声をかけてくれって言われ
ちゃってね。その後もなおさら声をかけづらくなっちゃったんだ」

佐藤「たまたま忙しかっただけだよ。いいじゃないか。気軽に声をかければ」
柳沢「君は山本課長と趣味も一緒で普段から話が合うからそれができるけど、
ぼくは、なんだか話しづらいんだよな」

佐藤「確かに山本課長は、君の趣味の釣りはやらないからなあ。
でも、趣味と仕事は別だろう。積極的にあたってみろよ」
柳沢「うん…」

この後二人は、一時間ほどとりとめもない話をしてから店を出ましたが、柳沢君の気持ち
は晴れませんでした。

問1=山本課長のエゴグラムはどんなタイプでしょうか。
(第1章の「エゴグラムによるリーダータイプの10のパターン」を思い出してください)

問2=それは、どのような特徴を持ったストロークをするのでしょうか。

問3=そのストロークは、柳沢君にどのような影響を与えているでしょうか。

問4=では、山本課長は、具体的に柳沢君にどのように接したらよいのでしょうか。

 

解説

山本課長のエゴグラムは、
①「バイタリティにあふれ、また思ったことをズバズバ言う裏表のない言動」
②「自分がかつてそうであったように、上司が頑張っている姿を見せることが、
特に若い二人に対しては一番の教育であると確信していた」
などから判断して、「CPーFC」タイプと思われます。
このタイプは、思ったことは遠慮せずにはっきり表現するため、一見魅力的にも映ります。
また、積極的・行動的でユーモアもあります。
その反面、価値観を同じくする部下をかわいがるが、そうでない部下は排除または関心を
示さない傾向も見られます。
このケースでは、佐藤君には、肯定的なストロークを与えているようですが、
柳沢君には、関心が薄いようです。
その結果、
柳沢君が「このままじゃいけないと思って、八時頃まで営業していた」という、頑張ろうと
した事実(変化)を見逃してしまっています。
そこで、せっかくの肯定的なストロークを与えるチャンスを逃してしまい、柳沢君には「課
長は、ぼくには関心がないんだ」という、「I am not OK」の感情が芽生え始めています。

さらに、「だめだよ。山本課長はいつも忙しそうだし、今日もわからないことがあって、
山本課長のとこに行ったら、今、手が離せないんだ、後で声をかけてくれって言われちゃ
ってね。その後もなおさら声をかけづらくなっちゃったんだ」や、
「今朝のミーティングでは、課長は君の昨日の契約をほめていたけど、
ぼくのことなんかひとことのねぎらいの言葉もなかったもんな」
という会話からもわかるように、その感情はさらに強化されていっています。
このような対応は、「I am not OK」という感情とともに、無気力を生み出してしまいます。

では、山本課長は、柳沢君にどう接していったらよいのでしょうか。

それは、山本課長のFCで柳沢君のFCを刺激してやることです。
FCは楽しいことが大好きです。
したがって、彼の興味のあることを話題にし、理解を示してあげることが大切です。
「どう、最近釣りに行ってるの?」
「へえ、そんな大物を釣り上げたのか。すごいなあ」

このような肯定的なストロークを与え続けることで、彼のFCを刺激し、「I am OK」とい
う感情を引き出し、山本課長に対する心理的な距離を縮めてあげることがまず第一です。
そのうえで、NPを充分に働かせ、FCの持つ積極性を引き出してあげる必要があります。

「関心を持つこと」とは
①小さな変化に目を配ること。
②話しかけられたときは、どんなに忙しくても、相手の目を見て、
「おー、どうした⁉ 」と笑顔で反応すること。
③相手の興味のあることを話題にすること(理解を示すこと)。

コーヒーブレイク

あなたは、奥さんが美容院に言ってきたとき、
「おお!いいじゃないか」と言っていますか。
いや、そもそも気がついていますか?
帰宅して、一杯やっているときに、
「ねえ、ねえ、きいて、今日ねえ…」と話しかけられたとき、
テレビや新聞に目をやりながら
「う~ん?」といった反応をしていませんか?
無関心は、無気力を引き出します。
その無気力が、晩酌のおかずが一品減っただけという程度ならばいいんですけど
ね……。