効果的リーダーシップのエゴグラムとは
以上、日頃の行動に最も強く表れる、一番目と二番目に高いバー(自我状態)の組み合わせをもとにして、リーダータイプの10パターンを見てきましたが、いかがだったでしょうか。
ご自分の作成したエゴグラムから見て、当たっていたでしょうか。「ズバリ当たっている」という人も多いことと思いますが、「大体当たっているけど微妙に違うなあ」という人も多いのではないでしょうかそれもそのはずです。エゴグラム、すなわち人の心の形は、一人ひとりみな違うからです。ちょうど指紋が一人ひとり違うように、エゴグラムも人の数だけあります。
しかもそれは、「今までの」「たった、今までの」心の形なのです。ですから、HALエゴグラムテストの結果をみて、愕然としている方も心配することはありません。
交流分析では、エゴグラムは変えることができると考えています。(むしろ変えることこそが、交流分析の目的なのです)それも自分で変えることができると考えています。特に私は、「自分の決心が、日々の行動に変化を与え、その積み重ねが習慣となり、性格を形作る」と
考えています。(ちなみに、どんなことであっても二一日間続けると、それは習慣になるという心理学者もおります)
自分のエゴグラムを開発する
では具体的にどのようにすればよいのでしょうか。以下にその手順を述べましょう。
手順1「決心する」
まず、どのようなエゴグラムにしたいのか決心することです。なりたい自分を決めることです。
今まで見てきたとおり、創造的で、みんなが自由に意見を言いあい、相互に思いやりがあり、そして、一人ひとりが生き生きと働いて、結果、高い業績を維持できる、そのような職場を作るために「効果的な自我」と「効果的でない自我」があることが、もうおわかりいただけたと思います。
すなわち「効果的な自我」とはNP・A・FCの三つであり、「効果的でない自我」とはCP・ACの二つをいいます。したがって、どのようなエゴグラムにするのか決心するうえで、
①NP・A・FCの三つのバーはCP・ACより高くなければなりません。
しかし、CP・ACが全くないというのも問題でしょう。適度なCPは、価値基準や自分自身の尊厳を保つためには必要で、同じく適度なACは、周囲と協調していくためには必要な要素だからです。
また、与えられた組織の役割・性格によっても、望ましい自我バランスは変わってくるものです。たとえば軍隊のような特殊な組織では、高いCPが必要ですし、現在でも、創業まもないベンチャー企業などでは、高いCPを持った経営者が成功をおさめているケースがめだちます。
②さらに、「効果的な」三つの自我のうち、Aが最も高いことが望ましいと思われます。
なぜならば、現実のコミュニケーションの場面では、そのときそのときの状況に応じて、NPやFCを働かせる必要、また、瞬時に切り替える必要に迫られるわけですが、Aの自我は、状況の把握、必要な自我の選択、また、それが効果的であったかの判断など、みなさんの人格を統制するマネジャーとしての役目を果たすからです。以上のことをエゴグラムにしてみると図表19のような型になるでしょう。
この図表を参考にして、あなたの置かれている環境や状況を考慮して、
「なりたい自分」のエゴグラムを作成してください。
手順2「なりたい自分」の行動特徴を明らかにする
★
28ページの図表2「自我状態の外部的特徴」を参考にして考えてください。
手順3「なりたいのに、なれない自分」はどんな場面で現れるのか考える
たとえば、会議などで自分の意見がある(なりたい自分)のに、人の目が気になって発言で
きない(ならない自分)といったことです。
過去に起こった事柄で、
①どんなときに、怒ってしまったか。
②どんなときに、言い争いをしたか。
③どんなときに、注意を受けたか。
④どんなときに、嫌な思いをしたか。
⑤どんなときに、相手を傷つけたか。
⑥どんなときに、ああすれば良かったのにと思ったか。
などを考えながら、「なりたいのに、なれない自分」が表れる状況を、五から一〇個くらい
あげてください。
手順4「こうする決心」を作成する
次の文章を参考にして、「なりたい自分になる」決心をしてください。
『私は、
①( ―想定した場面― )のときに、
②( ―今までの自分― )のような行動(発言)を改めることにした。
私は、
③( ―声・しぐさ等― )な姿勢(様子など)で、
④( ―発言・行動など、なりたい自分の姿― )のように行動(発言)する
決心をした』
いかがでしょうか。
上手な文章である必要はありません。
また、人に聞かせるものでもありません。
したがって、自分の決心をストレートに表したもの、自分で想起しやすいもの、
そして何よりも、自分が納得し、勇気づけられることが大切です。
初めてですと、なかなか思うように作れないようなので、次にあげる例を参考にしてくだ
さい。
例1
『私は、
①困難な場面にであったとき、
②下を向いて、ため息をつくことを、改めることにした。
私は、
③しっかり、前を向いて、微笑みを浮かべて、
④困難を乗り越える方法を必ず見つけ出す
決心をした』
例2
「私は、
①人を評価するとき(査定時という意味ではなく、人について語るときの意)
②欠点について話すことを改めることにした。
私は、
③大きく目を開いて、明るい声で
④長所について話すことを
決心した』
という具合です。
これを手帳か何かに書きとめておいて、一日に一回、必ず目を通すようにしてください。たったこれだけで、64ページの図表19の「効果的なリーダーシップのエゴグラム」に大きく近づきます。
余談ではありますが、例2は、私自身の「私の決心」です。私は、以前、大手情報出版会社であるR社グループに十七年間在籍しておりました。社内移動が頻繁に行われる社風もあって、私もほぼ二年おきに異動しました。そのため、人事考課を行った部下の数は、数百人に及びます。
R社では、人事考課システムが以前からかなり進んでいて、被考課者に対するフィードバック制度は早くから取り入れられ、考課シートも満足度の高いものにすべく、何度かの改定を行っていました。効果の実施にあたっては、業績と行動能力の二つの側面から査定します。
業績は、データに基づいて行うため、比較的客観的にできるのですが、行動能力はどうしても主観的になりがちです。そのためもあって、一般社員の査定にあたっては、直属上司の課長と、そのまた上司の部門長の協議を経て決定されることになっていました。
私が交流分析を学び始めたばかりの数年前のある査定の席上で、突然、それこそ突然に、被考課者の課題(欠点)ばかりに目がいっている自分に気がつきました。
すなわち、ここがいけない、これができていない、ここを改善すべきだ。というふうにです(一般に管理職は高いCPを持った人が多いようですが、私も高かったようです)
「ねえ、A君(課長)、Y君の長所って何だろう」
「はっ? ですから…頑張っているんですけど」
「いや、頑張っているんですけど、というのは頑張りが足りないということに対する枕詞み
たいなもんだろう(二人とも苦笑い)。
そうじゃなくて、彼の能力とか才能とか人より秀でたところは何なんだろう」
二人ともしばらくの沈黙が続きました。そして、課題(欠点)にばかり目がいっていたために、長所を見る目が曇っていた自分に気がつきました。そうして、被考課者の一人ひとりについて「いいとこ捜し」を始めるうちに、不思議と一人ひとりに対する「感情の変化」が生じてきたことに気がつきました。自分の自我状態が、CPからNPに切り替わっていたのです。行動を変えれば自我状態も変わる。すなわち、自我状態は自分でコントロールできるということにほかなりません。
余談ついでにもう一つ。
みなさんに学校に通っているお子さんがいれば、遠慮せずに担任の先生に聞いてみてください。「先生、先生から見て、うちの子はどんな才能や長所を持っていますか」即座に答えられないような教師であれば、NPが低く、CPが高いと判断してもさしつかえありません。
他の自我とのバランスにもよりますが、子どものACを日常的に刺激している危険性があり、子どもはストレスを抱えていることが考えられます。
自我状態を切り替える
大切なことがあと一つあります。
それは、日頃から今の自分はどの自我状態が働いているのかを常に認識しておくことです。特に、問題が起きたときや、コミュニケーションをとり始めようとしているときは、「ちょっと待てよ、今の自我状態はどれかな」と考えてみるクセをつけえておくことです。声の調子やしぐさですぐにわかるはずです。そして、効果的でない自我、すなわちCPやACの状態にあるときは、それを「効果的な」自我状態に切り替えることです。簡単です。
あなたの心の中にない物を捜すのではなく、あなたの心の中に間違いなく存在する自我、でも、ちょっと後ろに引っ込んでいる自我を引っ張り出してやればいいことなのですから。では、どうやって引っ張り出せばよいのでしょうか。それは、引っ張り出したい自我の外部的特徴、特に、声の調子・表情を作るだけでいいのです。それだけでもう切り替わっているはずです。